2003-04-21-Mon 王者と皇帝 [長年日記]

_ [F1]F1第4戦

今戦こそはシューマッハが勝たなければいけないレースであった。しかも、『poll to win』(完全勝利)で。

フェラーリ帝国の衰退、皇帝の失墜、F1の世代交代と噂される中のレース。そして、フェラーリの地元。王者アイルトン・セナが眠るサーキット。最後にセナと争そった場所。

予定通りシューマッハはポール・ポジションを獲得した。コンマ100秒の差だった。その差こそシューマッハの気迫。2番手には弟、ラルフ・シューマッハ。もっとも兄の事を知るライバルの一人。

必勝体制で望んだその日、シューマッハの母が亡くなった。

レース当日、シューマッハ兄弟は棄権するという噂が流れていた中で彼らはやって来た。走る事こそが母を追悼する唯一の手段だと言わんばかりに。

ピットの中、兄ミハエルは普段とは違っていた。シートからまったく降りようとせず、だれにも話しかけずただ黙って瞑想しているかのように座りつづけていた。

レースがスタートする。2番手にいた弟ラルフが好スタートを切って兄をかわした。そこから数周は弟と兄の激しいバトル。同じ母を亡くした悲しみの中、それでもライバルとして戦わなければいけない。どちらもたった一人の為にチェッカーを目指していたのだろう。

15週目でラルフがピットインしたときにピットスタートが遅くなってしまって順位を落してからはミハエルの独擅場だった。

これこそ皇帝、これこそフェラーリ。誰もが再びそう思わせるような強さであった。二番手には北欧のプリンス、キミ・ライコネン。若きシューマッハを、同郷の天才ハッキネンを彷彿させるような走りで今節を引っ張って来た男であっても今日のシューマッハには迫る事ができなかった。まるで王者がそして母が力を後押ししてくれているかのように。

チェッカーをミハエルが受け取った時、真っ赤に染まった観客席が沸いた。今日は誰もがミハエルを祝福しているようだった。

レース後、インタビューでフェラーリのチーム責任者が「今日のミハエルが達成した事についてどう思いますか?」と訪ねられると、

「注目するのは今日だけではなく、ミハエルがフォーミュラワンで達成してきたことに目を向けるべきだと思う。今日はとても辛かっただろうが、彼は仕事をすることを望んだから走った。チームにとって素晴らしい仕事をしてくれた。彼はドライバーだよ。彼がどんな人間かわかったと思うし、それが今日一番大切なことかもしれない。」

今、皇帝の翼が遅まきながらゆっくりとはばひらいた。皇帝がこのまま羽ばたいていけるのか、それとも若き飛龍がこのまま逃げ切るのか。これからのレースにも目が離せない。

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